大阪地方裁判所 昭和50年(わ)3094号 判決 1977年3月24日
本籍
大阪府堺市宿院町東三丁二九番地
住居
大阪府南河内郡狭山町大字大野一二五五番地
研磨工
中尾隆
昭和二三年四月一九日生
本籍
大阪府南河内郡狭山町大字大野一二四五番地
住居
右同所
研磨工
田中富雄
昭和二七年四月八日生
右被告人両名に対する公務執行妨害被告事件について、当裁判所は、検察官堀川和男出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人両名を各懲役六月に処する。
ただし、この裁判の確定した日から各二年間右刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。
理由
一 罪となるべき事実
被告人らは、大阪府南河内郡狭山町大字大野一二四五番地所在の鉄工業田中工業所こと田中嘉彦方に勤務する従業員であるが、両名共謀のうえ、昭和五〇年四月二八日午前一〇時三五分ころ、右田中工業所工場内において、右経営者田中嘉彦に対する昭和四九年分所得の概況調査に従事していた富田林税務署勤務大蔵事務官塩川茂(当二五年)に対し、同人の肩付近を手でつかんで突押し、あるいはその背部を両手で突くなどして同人を工場外に押出したうえ、同人の肩部、胸部を交互に両手で突き、その頭部を手拳で殴打し、さらにその場から逃れようとする同人を執ように追跡して付きまとい、右工場横の畑地において、同人の面前に立ちふさがり、その両肩を手でつかんで下方に押付けあるいは同人の腹部を膝蹴りするなどの暴行を加え、もつて同人の前記職務の執行を妨害したものである。
二 証拠の標目
一、司法警察員作成の検証調書
一、第二、第三回公判調書中の証人塩川茂の供述記載
一、塩川茂の検察官に対する供述調書
一、右同人作成の現場付近見取図二通
一、金原義憲の検察官に対する供述調書
一、証人西岡清志の当公判廷における供述
一、被告人両名の司法警察員、検察官に対する各供述調書
なお、弁護人は、被告人両名には塩川茂が税務署員であるとの認識がなかつたというが、前掲証拠、ことに塩川茂の証言、被告人らの検察官、司法警察員に対する供述調書によると、被告人両名はいずれも工場内において、塩川の所得調査に関する発問に対し応答しているばかりか、その応答内容をみれば、右塩川が税務署員であることを認識していたものと優に認定できるから、右の主張はとりえない。また、主張の事由から塩川の職務執行が違法であるというが、所得税法二三四条一項による質問検査権が納税義務者の従業員に及ぶことは同項三号により明らかであるし、同法二三六条の規定をみてもその際事前に調査の理由や必要性を個別的具体的に告知する必要があるとまで規定した趣旨とは解し得ない。ただ、納税義務者以外の者に対する調査は社会的相当性の限度内で許容されるものであるところ、被告人両名は当時ややもすると危険の伴う作業をしていたとはいえ、塩川の質問は極めて短い時間、しかも、簡単なものであつて、作業のまま返答できる程度であつたことをみると、その作業と対比しても不相当なものとはいえないからその質問が社会的相当性も欠くものではない。次いで被告人らの犯行は塩川の職務の終了後になされたものであつて、かつ、その暴行も可罰的違法とまではいえないというが、塩川は被告人らに対する質問に引続き、工場内の機械設備等の確認調査をしていたところ、被告人らによつて工場外に追い出され、続いて判示のような暴行を受け、その調査事務を断念させられたものであり、その犯行も殴打するなど執拗な行為に及んでいることにかんがみると可罰的違法性がないともいえず、公務執行妨害罪の成立に欠けるところはないから、弁護人の主張はいずれも採用できない。
三 法令の適用
判示事実 刑法九五条一項、六〇条(懲役刑選択)
執行猶予 刑法二五条一項一号
訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八二条
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 西村清治)